コラム
日本語の文法を外国人労働者に効果的に教える方法
2023.04.19
日本語は世界でも随一の難しさを誇り、外国人労働者に日本語教育を行う際に、日本語の教え方の難しさをより実感する人も多いのではないでしょうか。
厚生労働省の最新の発表によると、日本国内の外国人労働者数は約182万人と、過去最高を更新しました。(「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)|厚生労働省 (mhlw.go.jp))
では、外国人労働者はどのように日本語を勉強するのでしょうか。
本記事では、外国人労働者に日本語の文法を教える方法や、外国人労働者が日本語の文法を習得するまでのステップなどを紹介していきます。
日本語の文法習得の際に教師が意識したいこと
まず、日本語教師は外国人労働者の視点に立ち、日本語のどこに難しさを感じるのか、把握しなければなりません。
私たち日本人が英語を学ぶときと同じように、一つひとつステップを踏んでいくことを意識させてあげてください。
一歩一歩、着実な学びが実を結びます。
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日本語の文法を習得に導くまでのステップ
では、はじめにその「ステップ」を紹介します。
- ステップ①平仮名とカタカナの習得
- ステップ②身近な単語から覚える
- ステップ③身近な文法から身につける
それぞれ解説していきます。
ステップ①平仮名とカタカナの習得
まずは、平仮名とカタカナの習得です。日本語における最大の難関は文字の多さといわれています。
最難関である漢字と、ひらがな・カタカナに分けて考えましょう。
まずはひらがなとカタカナのマスターを目指します。
ステップ②身近な単語から覚える
初めて英語を学んだときのことを思い出してください。
例えば、初めて"This is a pen."を学んだとき、すでに"pen"という単語を知っていたはずです。
文を作るには単語が必要で、日本語学習においても「単語」は大事です。また、単語を知っていれば、文法が不十分でも聞き手に言いたいことを理解してもらえることもあります。
平仮名・カタカナの文字と音が一致したら、イラストや実物を見ながら物の名前を覚えられるように指導しましょう。
まずは外国人労働者にとって必要な言葉から覚えられるように練習をするといいでしょう。
外国人労働者にとって身近な言葉や単語は、すぐに使うことができるので、習得にもつながりやすいでしょう。
ステップ③身近な文法から身につける
文法といっても幅広く、やはり簡単なところから入っていきましょう。
文法も単語と同じように、外国人労働者にとって身近であり、かつ使用頻度の高い文法から指導をすると良いでしょう。
学習した文法を使用できる場面にあったら、使ってみたくなりますよね。
実際に使ってみて、「うまくいった、いかなかった」という経験から、学習者は上達していくものです。
教師が押さえておきたい日本語の文法の基礎知識
外国人労働者に日本語を教える際、日本語教師が押さえておくと良い日本語の文法の基礎知識について紹介します。
ここでは以下の10項目に分けました。
それぞれ簡単に見ていきましょう。
①文構造
日本語の文型は基本的に3つです。
- 1.主語+(目的語)+動詞
- 2.主語+形容詞
- 3.主語+名詞
以上のように、日本語の述語には3つの品詞が使われるということをおさえておきましょう。
②イ形容詞(形容詞)とナ形容詞(形容動詞)
国語の授業で習う「形容詞」と「形容動詞」 は、日本語教育においてはそれぞれ「イ形容詞」「ナ形容詞」と呼ばれます。
イ形容詞は「可愛い」「大きい」「寒い」など、「〇〇い」の形の形容詞です。ナ形容詞は「綺麗な」「豊かな」「親切な」など、「〇〇な」の形の形容詞です。
ここで日本語教師として押さえておきたいのは、「きれい」は「ナ形容詞」であるということです。
どちらも名詞を修飾する言葉です。
③動詞の活用
すべての動詞には活用があります。
ここでは「活用=あとに続く言葉によって単語の形が変わること」という認識で構いません。
たとえば「言う」であれば、「言わない/言った/言えば」などと変化します。
④他動詞と自動詞の違い
英語には他動詞と自動詞間に形の変化がないものばかりですが、日本語では大半が区別されます。
他動詞とは目的語を置く動詞のことで、「(扉を)閉める」「(電気を)消す」「(ガラスを)割る」などが挙げられます。
逆に「閉まる」「消える」「割れる」などは自動詞といえます。
⑤時制
英語を学んだとき「will」に違和感を持った人はいるでしょうか。未来形と教わったかもしれませんが、厳密には違います。
また、日本語の時制にも未来形は存在しません。日本語では、現在形で現在と未来を、過去形で過去を表します。
「彼は会議室にいる」は現在を、「これから公園へ行く」は未来を示す文ですね。 一方「彼が会議室にいた」「さっき公園へ行った」は過去形です。
時制は間違いの多い項目の一つであることも、日本語教師が押さえておきたい基礎知識の一つです。
⑥動作の段階
動作は一連の流れがあり、言語はそれも正確に言い表します。
「走りかける」「走りだす」「走っている」「走り終える」などは、一連の流れとしてイメージできますよね。
これが動作の段階です。「アスペクト」とも呼ばれます。
⑦動詞の態
英語学習で「受動態」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「be動詞+過去分詞」で表される文章です。
日本語にも受動態、ほかにも能動態や使役態が存在します。 主語や目的語と、述語の関係性と考えてもらって構いません。
以下に例をまとめました。
- ・能動態:作家が小説を書く。
- ・受動態:小説が作家に書かれる。
- ・使役態:編集者が作家に本を書かせる。
動詞の態は「ボイス」や「相」とも呼ばれます。
⑧気持ちを表す語句
文章の分類は無数にできますが、「客観的文章」と「主観的憶測の文章」に分けたのがこの文法項目です。
「主観的憶測の文章」は「モダリティ」とも呼ばれます。
「〜べきだ」「〜らしい」「〜そう」「〜ようだ」というように、推測のニュアンスが混じります。
⑨助詞
「終助詞」や「接続助詞」など、助詞の分類はさまざまですが、まずは基本となる格助詞「を、に、が、で、へ、と、から、より、まで」の9つを覚えておきましょう。
次の文を見てください。それぞれ、どんなイメージを持ちますか?
- 1.となりのトトロ
- 2.となりにトトロ
- 3.となりがトトロ
助詞が1つ違うだけで、意味がずいぶんと変わりますよね。
それぞれの助詞が持つ意味を理解することも日本語教師に必要な文法の基礎知識の一つといえるでしょう。
⑩敬語
最後は、日本語文法の最難関ともいわれる敬語です。
敬語は全部で5種類あります。
- ・尊敬語:「仰る」「お聞きになる」のように、動作主に敬意を払います
- ・謙譲語Ⅰ:「伺う」「お聞きする」のように、被動作主に敬意を払います
- ・謙譲語Ⅱ:「参る」「申す」のように、動作主を下げ、聞き手に敬意を払います
- ・丁寧語:「です」「ます」により、聞き手に敬意を払います
- ・美化語:「お茶」「お菓子」のように、対象を美化します
日本語の文法が身につくための練習方法
どの学習でもそうですが、やはり習得への近道は使ってみることではないでしょうか。
<日記やブログを書いてみる>
自分で考えた文章をアウトプットするための練習になります。
書いた日記やブログをクラスで発表するとスピーキングの練習にもなります。
また、自分の体験を書くため、記憶の定着という点においても良い練習になると言えるでしょう。
<学習したあと、早めに実践してみる>
日記やブログを書いてみるなど、学習したことをなるべく早く実践してみるのも良いでしょう。
では、学習した文法はどのような場面で使えるのでしょうか。
例えば「~ていただけませんか」という表現は、さまざまなテキストでも目にしますが、実際にどのようなときに使用するのか考えてみましょう。
報告書の書き方を先輩に教えてもらいたいとき、上司に早退を申し出たいとき、担当したい業務に立候補するときなど、使用場面がいろいろ考えられますね。
実際に「~ていただけませんか」という表現を使ってみることで、徐々に文法も身についていくのではないでしょうか。
日本語文法を外国人労働者に教えるときは多角的な学習を意識
日本語の文法は英語と異なる部分が多く、はじめは難しいかもしれません。
しかし、インプットだけでなくアウトプットも駆使するなど、多面的な学習をすることでどんどん上達するでしょう。
今回は外国人労働者に日本語の文法を教える際の段階や方法についてご紹介しましたが、この方法は外国人労働者以外にも使うことができます。
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