日本語教師養成コラム

外国人に日本語を教える際のポイントを詳しく解説

公開日:2023.04.25 更新日:2025.09.30

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

授業中の風景

「日本語を教えるときのポイントは?」
「日本語の教え方にはどんな手法がある?」
「直接法・間接法の特徴は?」

日本語を教えるときには、学習者の日本語レベルや学習環境にあわせ、教え方を使い分ける必要があります。
本記事では、外国人が日本語を難しいと感じる理由、直接法・間接法の違い、
そして、日本語を教えるときに注意しなければならないポイントなどについて紹介します。

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外国人にとって日本語のどこが難しいのか

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外国人が日本語を学ぶときにつまづきやすいポイントは
「漢字を覚える」「一つの漢字に対する色々な読み方とその使い分けを 覚える」「助詞の使い分けを理解する」の3つです。

日本語は、漢字・ひらがな・カタカナの3種類の文字を使い分ける必要があり、
多くの外国人にとって馴染みのない漢字はとくに覚えにくいものの1つです。

また、日本語においてはひとつの漢字に対する読みがいくつも存在することが多いので、
一つの漢字についてもいくつもの読み方を覚える必要があります。

さらに、「レストランで食べます」と「フォークで食べます」の「で」は同じひらがなの「で」ですが、意味が違っていたり、
「となりのトトロ」の「の」を「に」に変えて、「となりにトトロ」とすると意味が変わってしまうというように 、
どの助詞をどう使うかによって文意が異なる日本語 では、助詞の使い分けをしっかり理解する必要があります。

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外国人に伝わりにくい日本語はある?

日本語には、ほかの言語にはない特有の表現が多くあることから、外国人にとって理解するのが難しく、伝わりにくい場合があります。
外国人に伝わりにくい日本語の特徴には、以下のような例が挙げられます。

【外国人に伝わりにくい日本語の特徴】

 

同音異義語

・ はし(橋、箸、端など)

・いし(石、意思、医師など)

主語・目的語の省略

A「先ほど指示した作業は終わりましたか?」

B「はい。(先ほど指示された作業は)終わりました。」

多義語

・大丈夫です(肯定、了承、否定など)

・すみません(謝罪、依頼、感謝など)

あいまいな表現

・~くらい

・~ほど

尊敬語・謙譲語

・召し上がる(食べる)

・伺う(行く)

二重否定

・やらないわけにはいかない

・できないわけではない

外来語・和製英語

・エネルギー(英語と発音が異なる)

・ノートパソコン(英語ではlaptop

略語

・パソコン(personal computer

・リモコン(remote control

方言

・自分(関西弁で"あなた"や"君"などの二人称)

・来る(博多弁で"行く")

友達口調

・食べる?(食べますか?)

・持ってきて(持ってきてください)

 


上記を見てわかる通り、日本人が日常生活で何気なく使用している日本語のなかには、外国人に伝わりにくい言葉や言い回しが数多く存在しているのです。

会話や文章でこれらの表現を多用すると、日本語が未習熟の外国人を混乱させる可能性があります。

外国人に日本語を教える際に心がけたいこと

外国人への日本語教育にあたっては、その方の視点に立ち、どのような点に難しさを感じているのかを把握することが大切です。

先述したように、日本語には外国人に伝わりにくい特徴が多数存在するので、なかには習得するのに時間を要する方もいます。
「わからない」と感じるポイントは一人ひとり異なるため、外国人に日本語を教える際は理解度を適宜確認し、一歩ずつ着実に学習を進めていきましょう。

日本語の教え方

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日本語の教え方には「直接法」「間接法」の2種類があります。
ここからは、日本語教育における「直接法」「間接法」の2種類の教え方について、比較しながら紹介します。

直接法

日本語教育における直接法とは、日本語のみを用いて日本語を教える方法です。
発音はもちろん、難解な日本語文法事項についての説明をするときにも、日本語のみを用いて行います。

直接法では、毎回の授業で日本語を多く聴き、発音の仕方や自然な言い方、
話し方を経験として学びながら、日本語が習得できます。
直接法による日本語教育では、多くの場合ジェスチャーやイラストカードを用いて、
学習者がその言葉の意味や、文の意味をイメージできるようにして教えていきます。

間接法

日本語教育における間接法とは、日本語以外の言葉を用いて日本語を教える方法です。
日本の中学校、高校などで英語の授業をする際、日本語を用いながら英語について教える方法も、この間接法にあてはまります。

海外における日本語教育では、現地の学習者の母語や、クラス全員が理解可能な言葉を用いて
日本語の授業を行う場合は多く存在します。

直接法のメリット

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直接法では日本語を用いて授業を行うことができるため、
外国語が不得手な教師であっても日本語を教えられることが、教える側のメリットとして挙げられます。

また、学習者にとっては、毎回の授業を通して日本語を聴いたり、話したりする機会が増えるため、
リスニングやスピーキングの能力を鍛えられるというメリットがあります。

間接法のメリット

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間接法で日本語を教えるとき、日本語を勉強し始めて間もない初心者にとっては、
授業中の説明や指示について内容を正しく理解することができます。

また、日本語を用いて日本語を教える際には、一定のスキルが必要とされますが、
そのスキルが十分でない教師が直接法で教えると 、日本語をまだ理解できていない学習者は、
授業中に教師が話す日本語が理解できず、そのまま聞き流してしまうリスクがあります。

そういった事態を避けたい場合に、間接法は有効です。

外国人に日本語を教えるポイント

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ここからは、特に初級レベルの外国人 に日本語を教える際のポイントを以下の6つに絞って紹介します。

  • ・長文を使わない
  • ・ジェスチャーを使う
  • ・アウトプットを促す
  • ・ゆっくりと話す
  • ・母語でのサポートを行う
  • ・あいまいな言い方を避ける

それぞれ解説していきます。

長文を使わない

「今日はお腹が痛いので、会社を早退して、病院に行ってから、家に帰って寝ます」と
いくつもの文をつなげて長い文にして話すと、初級レベルの学習者はどこに文の切れ目があるのか分からなくなり、
理解できなくなります。

そのため、「今日はお腹が痛いです。/会社を早退します。/病院に行きます。/家に帰って寝ます。」というように、
なるべく一文一文を短くすることを心掛け、細かく短文を並べて話すことが重要です。

ジェスチャーを使う

ジェスチャーを使うことで、日本語の意味を目に見えるようにしてわかりやすくしたり、
実際にその日本語が使われる場面をイメージしながら学んでもらうために、
ジェスチャーを用いて場面を再現しながら教えることも効果的な方法です。

ジェスチャーを用いることで、視覚的に日本語を理解できます

アウトプットを促す

一方的に文法や言葉を暗記するだけでは、実際に日本語を話すためのスキルは身につきません。
初級レベルであっても、その日の授業で勉強したことを使って会話練習をしたり、
日本語で意見をのべてもらったりするなど、アウトプットの時間を作ることが大切です。

ゆっくりと話す

伝えたい内容をゆっくりと話すことも、外国人に日本語を教える際の重要なポイントの一つです。

日本語に限らず、母語以外の言葉を聞き取り、一度で理解するのはとても難しいことです。
慣れない言語を聞き取る際は、言葉の一つひとつを整理しながら理解する必要があるため、テンポが速い会話はかえって学習を困難にしてしまいます。

学んだ内容を確実にインプットし、実践できるようにするためにも、初めのうちはゆっくりと丁寧に話すことが大切です。ですが、レベルが上がってもゆっくりなスピードで話していては、いつまでも日本人と会話をすることができません。レベルに合わせてスピードも調整することが大切です。

母語でのサポートを行う

外国人に日本語を教える際は、先述した間接法で、その方の母語を用いるのも一つの方法です。
特に、「~ほど」「~くらい」などの不明瞭なニュアンスや、「すみません」「大丈夫」などの多義語を説明する際に効果的な方法です。

なお、母語を活用した日本語教育を行うためには、教育担当者がその言語をあらかじめ習得しておく必要があるので、多様な学習者のすべての言語に対応するのは困難といえます。

このようなときは、それぞれの学習者の母語に翻訳されている日本語の教科書を事前に用意しておくことで、円滑な教育が可能となります。

あいまいな言い方を避ける

「かもしれません」「~と思う」などのあいまいな表現を、外国人の教育で使用するのは避けましょう。
こうした不明瞭な表現は外国人にとって理解が難しいため、教育の際に用いてもこちらの意図が伝わらない可能性があります。

そのため、外国人に日本語を教える際は「~です」「~ではありません」といった、断定的で明確な表現を用いるよう心がけましょう。

外国人に日本語を教える際に生じる課題

ここまで、外国人に日本語を教える際のポイントについて解説しました。
しかし、これらのポイントを押さえても、以下で紹介するような課題に直面するケースも少なくありません。

学習意欲が続かない可能性がある

外国人に日本語を教える際は、学習者自身のモチベーションを高められるように工夫することが求められます。
たとえば、学習者のペースを無視して教育を進めた場合、理解が追い付いていないまま次々と学ばなければならず、余計なプレッシャーを与えてしまいます。

また、教えられるばかりでアウトプットの機会が少ない場合、学習者自身が日本語をどれほど習得できているのかを実感することも困難となるでしょう。

これでは学習意欲が低下してしまうので、日本語の教育を確実かつスムーズに進めるには、学習者のモチベーションの維持と向上にも努める必要があります。

具体的な方法として、状況に応じた適切なあいさつや、簡単な自己紹介といったレクリエーションを盛り込むことで、日本語を話す機会を増やすのが有効です。

そのほか、アニメや食べ物といった学習者が関心をもつトピックに焦点を当てることで興味を引き出し、学習意欲の向上を図るという方法もあります。

誤解が生まれる場合がある

学習者のなかには、文化や価値観の違いを要因として、日本語を誤解してしまう方もいます。

日本語をはじめとするあらゆる言語には、その国の文化や考え方が色濃く反映されています。
たとえば、日本人にとって当たり前ともいえる"行間を読む"という行為は、言葉にされていない意図を察することが求められる日本文化特有のコミュニケーションのあり方です。

直接的な表現が多い言語を母語とする方にとっては、言葉や文章が省略されていると正確な意味を理解できず、誤解を招くおそれがあります。

そのため、前提の知識が必要となる表現を教える際は、まずは日本の文化や考え方を一緒に伝えてみてもいいかもしれません。

外国人と日本語でコミュニケーションをとる際のポイント

ここからは、日本語を用いた外国人とのコミュニケーションを円滑に行うために、心がけておきたいポイントをご紹介します。

漢字に"かな"を振る

文章のやりとりにおいては、漢字に"かな"を振るのがおすすめです。

日常生活で多用する常用漢字は約2,000字あり、人名に使われる漢字を含めると約3,000字にものぼるため、日本語になじみのない外国人が読み方をすべて覚えるのは困難です。

また、漢字を正確に読むには同音異義語や音読み・訓読みを理解することも必要となります。
そのため、日本語の文章で外国人とコミュニケーションを図る際は、漢字にかなを振ることでより正確な意思疎通につなげられます。

ひらがなが読めない外国人の場合は、ふりがなをローマ字に置き換えるのが有効な手段です。

やさしい日本語を使う

会話をする際は、やさしい日本語を使うことで外国人とも明確な意思疎通を図りやすくなります。

尊敬語や謙譲語のように、自身や相手の立場によって変化する表現は、外国人にとって理解するのが困難な場合があります。「です」「ます」といった丁寧語を使うように意識すれば、伝えたい内容を理解してもらいやすくなるでしょう。

これにくわえて、「または」「さらに」といった接続詞の使用を控え、会話の一文を短く収めれば、よりスムーズなコミュニケーションが可能になります。

外国人に日本語を教えている場所は?

最後に、外国人向けの日本語教育がどのような場所で行われているのかを見ていきましょう。

【日本語教育が行われている場所】

  • ・日本語学校
  • ・インターナショナルスクール
  • ・NPO法人やボランティア団体が開催する日本語教室

上記を見ると、日本語の教育は形態を問わずさまざまな場所で行われていることがわかります。
日本語学校は、特定技能をはじめとする在留外国人の急激な増加に伴い、近年需要が高まっている教育機関です。

また、国際的な視点を育むことを目的としたインターナショナルスクールでは、外国人の生徒向けに日本語の教育を行っている場合があります。

そのほか、外国人との共生社会を目指すNPO法人やボランティア団体は、講師や有志を募り、外国人向けの日本語教室を開催しています。

日本語を教えること自体に特定の資格は不要ですが、日本語学校のような教育機関で活躍するには、国家資格である"登録日本語教員"の取得が必要です。

日本語教育を通じて、グローバルに活躍できる人材としてキャリアを形成したい方は、登録日本語教員の取得をご検討ください。

日本語を教える際のポイントは学習者に合わせて一番適切な教え方を選択すること

外国人に日本語を教える時には、学習者の日本語レベルや学習環境にあわせて、適切な方法を用いて授業を行うことが重要です。

日本語の教え方を正しく理解し、学習者に合わせて教え方を工夫しながら、
効率的で効果的な授業ができる日本語教師を目指しましょう。

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。