現役日本語教師の日本語豆知識
自転車は「押す」?「引く」?
公開日:2016.08.29 更新日:2024.08.29
監修者情報
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
自転車に乗らないで、ハンドルに手をかけて歩いていることを皆さんは、
「自転車を押す」と言いますか。それとも、「自転車を引く」と言いますか。
「押す」か、「引く」か。
地方によって、どちらかしか使わないというところもありますが、両方使う
というところもあり、どちらかが間違いというわけではありません。
ただし、「両方使う」をいうところは、「押す」と「引く」の使い分けを
しているようです。
では、「押す」と「引く」。どのように違うのでしょうか。
手元にある辞書をみると、
「押す」:向こうへ動かそうと力を加える。(例)荷車を押す。
「引く」:前から力を加えて車などを進める。(例)荷車を引く。
とあります。
つまり、
「押す」というのは、物が自分の前にあり、それに後ろから力を加えて動かす
動作、
一方、「引く」というのは、物が自分の後ろにあり、それに前から力を加えて
動かす動作
と言えます。
そうなると、自転車のハンドルに手をかけて歩く状態は・・・。
自転車があるのは、自分の前でも、後ろでもありません。「横」にあります。
だから、「押す」のか、「引く」のか?という疑問が出てくるのかも
しれません。
ハンドルと自分の位置関係に注目するなら「押す」 です。
また、前のかごに重い荷物が載っている場合も「押す」を使う傾向があります。
それに対して、自転車の後ろに重い荷物が載っている場合は「押す」ではなく、「引く」 と言いたくなるのではないでしょうか。
学生の頃、教授に「日本は上り坂と下り坂のどちらが多いか?」という問題を
出されたことがあります。答えは、「同じだけある」です。
なぜなら、坂を上から見れば「下り坂」、下から見れば「上り坂」。
どちらの視点で見るかで表現が変わるということです。
自転車を「押す」と「引く」。
これもどちらの視点で見ているのかで、日本人は無意識に使い分けている
のですね。
この記事の監修者
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格
《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。
《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。
《監修者からのコメント》
日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。