現役日本語教師の日本語豆知識

「どうぞ」と「どうか」

公開日:2016.11.14 更新日:2024.05.28

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

相手に何かを頼む時に、私たちはこんな風に言います。

どうぞよろしくお願いします。」
どうかよろしくお願いします。」

さて、皆さん。この「どうぞ」と「どうか」、どのように使い分けていますか。

お願いの度合いの違いでしょうか。
それとも、丁寧さの違いでしょうか。

「う~ん・・・」と考え込んでしまった方は、次の例を見て、考えてみて
ください。

(例1)スーパーの試食販売で店員が客に呼びかける場合
    A)「どうぞ召し上がってみてください」
    B)「どうか召し上がってみてください。」

(例2)退社時間間際に、明日の午前中に必要な書類作成をお願いする場合
    A)「どうぞお願いします。」
    B)「どうかお願いします。」

いかがですか。
(例1)ではB)の方に、(例2)ではA)の方に不自然さを感じたのでは
ないでしょうか。

「どうぞ」と「どうか」。
両方とも、単なる「お願いします」と言う時より、お願いの度合いや丁寧さを
高める表現です。
しかし、お願いする時の状況によって、使い分けがあります。

「どうか」は、困難なことは分かっているが、そこをどうにか、という場合に
使います。

つまり、話し手が「どうか」を使うのは、困難な状況を承知の上で懸命に頼む、
懇願する時です。

一方、「どうぞ」には「困難な状況」というものがありません。単に、相手に
対して、自分の希望を丁寧に依頼する時
に使います。

ですから、(例1)のように、試食販売という場面では、普通「困難な状況」
は想定できませんから、「どうか」ではなく、「どうぞ」の方を自然だと感じ
ます。(その商品を試食するのに20分ぐらいかかるので、客が嫌がって
誰も試食してくれず、困っているという場面なら、「どうか」を使っても不自然
ではありませんが・・・)

また、(例2)の場合は、「退社時間間際に、相手に無茶なお願いをする」と
いう困難な状況ですから、「どうか」がベストです。反対に、こんな場面で
「どうぞお願いします」なんて言われたら、依頼された方は頭にきますよね。

「どうぞ」と「どうか」。
似ている言葉ですが、場面や自分の心情に合わせて使い分けたいもの
です。

そして、お願いを受ける側になった時も、依頼主がどちらを使ってお願い
してくるかで、その人のおかれた状況や今の心情を読み取れるように
なりたいものです。

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。