現役日本語教師の日本語豆知識
責任逃れしたいときは、自動詞を使う?!
公開日:2016.10.31 更新日:2024.08.29

監修者情報
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
先週のブログで、日本人はなぜ「お茶を入れました(他動詞)」ではなく、
「お茶が入りました(自動詞)」と言うのか・・について書きました。
→詳しくはこちら。「お茶が入りました」と「お茶を入れました」
今日も、この「自動詞」と「他動詞」について紹介したいと思います。
先週、日本人は「動作主である自分を言い立てないことを良しとする」価値観
を持っているので、「(私は)お茶を入れました(他動詞)」ではなく、
「お茶が入りました(自動詞)」を使うことで、自分を隠す、ということを
紹介しました。
こう説明すると、自動詞を使って表現することは、謙虚さを表す良い表現の
ように感じますね。
しかし、この「自動詞を使った表現」は使う状況によっては、責任逃れの表現
になってしまいます。
例えば、こんな場面に遭遇したことはありませんか?
子ども:(ガチャーン。コップをテーブルから落として)
「ママ~!ママ~!コップが壊れたよ~。」
お母さん:「壊れたじゃないでしょ!!!壊したんでしょ!!」
「壊れた」という自動詞を使うことで、結果の方に視点をおき、
「壊した」自分を隠すという、自動詞の特長を上手く(?)使った言い方です。
もちろん、子どもは「壊れた」と「壊した」の違いを知って、使い分けている
のではないと思いますが、もし、これが大人の会話であれば、「コップが
壊れたよ」なんて言ったら、相手に「責任逃れ」と思われても仕方ありません。
「自動詞」を使って、「謙虚さ、控えめさ」のニュアンスを添えるか、
「責任逃れ」をするか。
その時の自分の心情で日本人は無意識に使い分けているようです。
この記事の監修者

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格
《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。
《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。
《監修者からのコメント》
日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。