現役日本語教師の日本語豆知識
「~てくれる」と「~てもらう」の違い
公開日:2016.08.22 更新日:2024.08.29
監修者情報
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
オリンピック、終わってしまいましたね。
朝起きるたびに、「結果はどうなった?」、「何色のメダル?」と楽しい
17日間でした。
そのオリンピックの実況中継で、こんな表現がありました。
アナウンサーA 「う~ん。なかなか点をとらせてくれません。」
アナウンサーB 「う~ん。なかなか点をとらせてもらえません。」
「とらせてくれません」と「とらせてもらえません」。
日本語を勉強する外国人から「先生、どう違いますか?」と質問されそうな
表現です。
この二つはどう違うのでしょうか。
「~てくれません」は「~てくれる」の否定、「~てもらえません」は
「~てもらう」の否定ですから、
「~てくれる」と「~てもらう」の違いを考えてみます。
「~てくれる」と「~てもらう」は、日本語教育では「行為の授受」と言い
ます。つまり、何らかの行為を相手から受け取る際に使う表現です。
例えば、
① 田中さんは私に傘を貸してくれました。
② 私は田中さんに傘を貸してもらいました。
というように、「田中さん」と「私」の間で「(傘を)貸す」という行為の授受
が行われた時の表現です。
①と②の文では、どちらも「『貸す』という行為をしたのは田中さん」、
「『貸す』という行為を受けたのは私」です。
同じことを表してるようですが、実は違いがあります。
まず、表面的なルールとしては、
① 「行為をする人(▲▲)」は 「行為を受ける人(●●)」に ~てくれる。
② 「行為を受ける人(●●)」は 「行為をする人(▲▲)」に ~てもらう。
というように「▲▲」と「●●」の語順が違います。
しかし、それだけではありません。
「~てくれる」は、人の行為を受けて、感謝の気持ちを持っている時に
使います。
一方、「~てもらう」は、人に行為を頼んで、その行為に感謝の気持ちを
持っている時に使います。
ですから、急に雨が降って、困っている時、
① 頼んでいないのに、田中さんが傘を私に貸した + 私は「ありがとう」
と思った ⇒ 貸してくれました
② 私は田中さんに「傘を貸して」と頼んだ + 田中さんが傘を私に貸した
+ 私は「ありがとう」と思った ⇒ 貸してもらいました
という違いがあるということです。
そう考えると、実況中継も
「点をとらせてくれません」と言うときと、「点をとらせてもらえません」と
言う時では状況やアナウンサーの心情が違うということですね。
「~てくれる」と「~てもらう」。
違いを理解して、使い分けたいですね。
この記事の監修者
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格
《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。
《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。
《監修者からのコメント》
日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。