現役日本語教師の日本語豆知識

米洗う前[に/を/へ/で]蛍が・・・

公開日:2015.12.21 更新日:2023.04.26

8月から色々なテーマで「日本語の仕組み」をご紹介してきましたが、
皆さまいかがでしたでしょうか。
「へ~。日本語ってこんなルールがあるんだ」とか、
「日本語って面白い」とか思っていただけたら、一人の日本語教師として
とてもうれしく思います。

さて、今日は「日本人の知らない日本語の仕組み」シリーズの今年最後の
更新です。
2015年の「まとめ」として、こんな問題はいかがでしょうか。
ぜひ、皆さん、考えてみてください。

【問題】次のA)~D)の情景の違いを説明してください。
A)米洗う前蛍が一つ、二つ
B)米洗う前蛍が一つ、二つ
C)米洗う前蛍が一つ、二つ
D)米洗う前蛍が一つ、二つ

この俳句は、日本語の助詞の面白さを理解してもらうために、小学校の国語の
時間でも、よく使われる有名なものです。
私たち日本語教師も、養成講座受講生の時に、この俳句で「助詞」の大切さを
学びました。

前回のブログに書いたように、こういった問題の場合は
「同じところは同じ意味。違うとことにその意味の違いがある。」の法則
に従い、まず同じ部分を消去してみます。
そうすると、残ったのは「に/を/へ/で」という、たった一字の部分です。
この一字が、A)~D)の情景をガラリと変えているんですね。

では、どう違うのでしょうか。
「う~ん・・・」と唸ってしまう方は、「一つ、二つ」の後ろには
どんな動詞が続くかを考えてみてください。

A)米洗う前蛍が一つ、二つ・・・・いる/とまっている/飛んできた
B)米洗う前蛍が一つ、二つ・・・・通過する/飛んでいく
C)米洗う前蛍が一つ、二つ・・・・飛んでくる/向かってくる
D)米洗う前蛍が一つ、二つ・・・・飛んでいる

というような動詞が頭に浮かんでくるでしょうか。

では、どうしてA)~D)それぞれの後ろにつながる動詞が違うのでしょうか。
これは、「所の言葉+に/を/へ/で」のそれぞれが、どういう意味を持つのか
を日本人は体得しているからなのです。

「所の言葉+」は「存在する場所」、「到達点」を、
「所の言葉+」は「通過する場所」を、
「所の言葉+」は「向かう方向」を、
「所の言葉+」は「その動作をする場所」を表すことを、
私たち日本人は上手く説明できなくても、知っているのです。

ですから、A)~D)の俳句に続く動詞もそれぞれ違うものを選ぶことができ、
更に、このA)~D)の情景の違いもイメージできるのです。

日本語を勉強する外国人だけでなく、日本人からも「難しい」と言われることの
多い助詞ですが、たった一字でその情景を変えてしまうのが「助詞」です。

こういった「助詞」の持つパワー(?)を、「難しい」ではなく、「面白い」
と思ってくれる外国人・日本人が増えることを願っています。

それでは、皆さま、良いお年をお迎えください!!

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。