現役日本語教師の日本語豆知識

田中さん「に」会う/田中さん「と」会う

公開日:2015.11.30 更新日:2023.04.26

ジョンさん:先生、質問があります。
     私は「昨日 私は 田中さん 会いました。」
     と書きましたが、
     先生は「昨日 私は 田中さん 会いました。」に直しました。
     「田中さん 会いました。」と「田中さん 会いました。」は
     どう違うのですか?

さて、皆さん。
「田中さんに 会いました。」と「田中さんと 会いました。」の違いを
ジョンさんに上手く説明できますか。

この二つの文で違うのは、助詞が「に」か、「と」かという点です。
たったひらがな一文字の違いですが、「田中さんに会う」と「田中さんと会う」
では、聞いた時のイメージが全く違います
では、どのように違うのでしょうか。

「何か違うのはわかるけれど、上手く説明できない・・。」
「私には同じように感じるけど・・。」
という方は、次のシチュエーションで考えてみてください。

A)駅で偶然会った場合
B)田中さんと私が約束した上で、駅で会った場合

A)のシチュエーションの時、「田中さんに会った」と「田中さんと会った」は
どちらの方がしっくりいきますか?
B)のシチュエーションの時はどうですか?

このように考えてみると、少し「に 会う」と「と 会う」の違いが見えてくる
でしょうか。

では、私たち日本語教師は外国人にこの違いをどう教えているのか・・
というと、

①「~ 会う」は一方的な動の場合:「私田中さん」
②「~ 会う」は双方向の動作の場合:「私田中さん」

と教えています。

つまり、
「田中さんに 会う」は、話者である私が会う相手が「田中さん」であることを
「に」で示しているだけ
で、「田中さんの意思」はこの文ではわかりません。

それに対し、「田中さんと 会う」は、「会う」という動作を一緒にする人が
田中さんであることを「と」で示し
ており、田中さんにも「会う」意思がある
ことがわかります。

ですから、
A)駅で偶然会った場合は「田中さん会った」、
B)約束して会った場合は「田中さん会った」の方が、
聞いたときに自然に感じるのです。
(理屈ではなく、自然に感じるというのが、ネイティブのすごいところですね)

こんな風に「~に~する。」と「~と~する。」の違いを教えたあとで、
外国人たちにちょっと意地悪な質問をします。

先生:「私は猫話します。」のジェスチャー、どうぞ~!
学習者:一斉に猫に語りかけるジェスチャーをし始める。

先生:では、「私は猫話します。」のジェスチャー、どうぞ!
学習者:一斉に、「できません!!猫は話しません!!」との答え。

みんな、「に」と「と」の違い。わかったようですね(笑)。

◆◇◆ 次回(12/7)、予告 ◆◇◆
ジョンさん:先生、先週勉強した敬語で、「お」と「ご」の使い方が
     わかりません。
     「話?話?」、「連絡?連絡?」。
     日本人はどんなときに「お」を使って、どんなときに「ご」を
     使うのですか。教えてください。
新米先生:え~っと・・。それはですね・・・。

皆さんは、「お」と「ご」をどう使い分けていますか?

答えは、来週月曜日に。

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。