現役日本語教師の日本語豆知識

「ここに ない」と「ここには ない」

公開日:2015.11.24 更新日:2023.04.26

ジョンさん:先生、この前日本人と話していたら
      「その本はここにはない」
      と言われました。
      でも、日本語のテキストには「ここない」と書いてあります。
      「ここにはない」と「ここない」は同じですか?

この質問は、日本語を勉強している外国人からよく出ます。

確かに初級のテキストでは「ここ ありません」と書かれているものが
ほとんどです。
しかし、実際の日本人の会話では「ここ ありません。」という時もあれば、
「ここには ありません。」という時もありますから、外国人にとっては「???」なのです。

では、「本は ここ ありません。」と「本は ここには ありません。」を
皆さん、どのように使い分けていますか?

「え~、そんなこと考えたこともない」という方は、次のように考えてみて
ください。

「本は ここに ありません。」と言われた時と
「本は ここには ありません。」と言われた時。
どちらの方が「じゃあ、どこに あるの?」と続けて質問したくなりますか?

こう考えると、ほとんどの方が「本は ここには ありません。」と言われた時
の方が、「じゃあ、どこに あるの?」と続けたくなるのではないでしょうか。
更に、そう続けて質問した時に、「さあ、知りません。」と答えられたら、
「え?!」っと戸惑う(シチュエーションによってはムカっとする?)のでは
ないでしょうか。

その皆さんの感じる感覚が
「ここ ありません。」と「ここには ありません。」との違いなのです。

「ここ ありません。」と言った時は、
単に『「ここ」という場所に「本」が存在しない』ということだけを伝えているのですが、
「ここには ありません。」と言った時は言外に「他の所にある」ということを
示している
のです。

ですから、「ここには ありません。」という時は、
「どこにあるか知っている」場合でないと使えないのです。

たった一文字「は」があるか、ないかでこんなにもイメージが変わってしまう
ということを考えると、助詞は日本語の中でとても重要な役割を担っている
のだな・・・としみじみ思うのですが、皆さんはどうですか?


◆◇◆ 次回(11/30)予告 ◆◇◆

ジョンさん:先生、質問があります。
新米先生:なんですか。ジョンさん。
ジョンさん:この作文ですが、私は「昨日 私は 田中さんに 会いました。」
     と書きましたが、
     先生は「昨日 私は 田中さんと 会いました。」に直しました。
     「田中さん 会いました。」と「田中さん 会いました。」は
     どう違うのですか?


さて、皆さん。
「田中さんに 会いました。」と「田中さんと 会いました。」はどう違う
のでしょうか。

答えは、また来週。

→ルネサンス日本語学院の法人向け日本語研修はこちら

この記事の監修者

監修者の写真

松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。