現役日本語教師の日本語豆知識

けんかの原因

公開日:2015.10.21 更新日:2023.04.26

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

あるクラスでのことです。

いつもクラスを明るくしてくれるブラジル人のルイスさんが、その日は
ショボ~ンとして、うつむいてました。
他のクラスメイトが声をかけても、反応せず、授業も上の空。
あまりにもいつもの様子と違うので、授業が終わったあと、
「どうかしましたか?」と彼に声をかけました。

すると、
「昨日、彼女(日本人)に胃薬をあげたら、怒って、家を出ていって
しまった

とのこと。

胃薬をあげたら、怒って、出て行った???

状況がよく分からないので、詳しく聞いたところ、

ルイスさん:実は、昨日恋人(日本人)と喧嘩をしました。喧嘩をしている時、
      彼女が『あー、腹が立つ!』と言いました
      だから、私は彼女に胃薬をあげました
      そうしたら、彼女は怒って、家を出ていきました。
      どうして?わかりません。とても、悲しいです。
私:あ~・・・・・。(ルイスさん。それはね・・・)


まだ慣用句を勉強していないルイスさんは、彼女の言った「腹が立つ」の意味が
わからなくて、
「腹」が「立つ」
    
「お腹が上に行く」
    
「お腹が痛い」

と考えたそうなのです。

ルイスさんとしては、彼女の体を心配して、薬をあげたのに、どうして??
という気持ちだったでしょう。
そして、彼女も喧嘩をしている時に「はい、薬」と渡されて、
「ふざけないでよ!」という気持ちになったのかもしれません。
(きっと、喧嘩で冷静さを失っていて、ルイスさんが日本語を勉強中である
ことを忘れてしまっていたのでしょうね・・)

慣用句は、意味を知っている側にとっては便利な表現ですが、
意味を知らない人たちにとっては、こういう勘違いがたくさんあるんだと
思います。

★★ 後日談 ★★

その後、ルイスさんと彼女は仲直りをしました。
彼女がルイスさんに小学生用の「ことわざ・慣用句辞典」をプレゼントして
くれたそうです。
ルイスさんがニコニコしながら、「勉強しま~す!」と私に見せてくれました。

頑張れ!ルイスさん!!

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。