現役日本語教師の日本語豆知識

「着る」と「はく」の使い分け

公開日:2015.10.19 更新日:2023.04.26

セーターを着る
ズボンをはく


英語を勉強したとき、この「着る」も、「はく」も「wear」で表すことを
知って、私たち日本人は『へ~。英語は「着る」と「はく」は同じ単語なんだ
と思ったのではないでしょうか。

日本語を勉強する外国人はというと、私たち日本人とは反対に、
『へ~。日本語には「着る」と「はく」があるんだ。』と
思っています。そして、こう質問します。
「着る」と「はく」はどう違うのですか?』と。

「着る」と「はく」の違いを外国人に説明する際に避けて欲しいのが、
個別の事物と動詞を結びつける方法です。
例えば、『セーター、ジャケットは「着る」。ズボン、スカートは「はく」。』
というような方法です。
このように説明をすると、外国人は身につけるもの一つひとつに対し、
使える動詞を覚えなければならなくなり、とても大変です。
(実際に、私が出会った学習者にも「スリッパの動詞はなんですか?」、
「靴下の動詞はなんですか?」という質問をしてくる人がいました・・・)

では、私たち日本語教師はどう教えているかというと、
・肩から腰(の間に身につけるもの)は「着る」
・腰から下(に身につけるもの)は「はく」

と、シンプルに教えています
(もちろん、学習が進めば、「かぶる」、「巻く」など細かな動詞の使い分け
も教えますが、初めはこのようにシンプルに教えます)


そこで、ふと思ったのですが、ある地方では「手袋をはく」と言うそうです。
私も初めて聞いたときは「手袋をはく?!」と驚いたのですが、
直立して、手を下に伸ばしてみると、確かに「手首」は腰より下の位置にある
ので、「手袋をはく」は論理的には成立する表現なのかもしれない・・・
と思いました。
(私は方言の専門家ではないので、あくまでも類推です。
どなたか「手袋をはく」という表現のルーツをご存知の方がいらっしゃったら、
教えてください)


◆◇◆ 次回(10/26)予告 ◆◇◆

ジョンさん:先生、例文をホワイトボードに書きてください。
新米先生:ジョンさん。「書きてください」ではありません。
     「書いてください」です。
ジョンさん:すみません。あの、先生。
      この漢字を読みてください。
新米先生:「読みてください」ではありません。
     「読んでください」ですよ。
ジョンさん:う~ん・・・。「書いてください」、「読んでください」。
      先生、日本語の「てください」は色々あって、難しいですね。


「書いてください」、「読んでください」、
「立ってください」、「話してください」・・・。
この「てください」のルール。
分かりやすく説明できますか?

答えは、来週月曜日に。

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。