現役日本語教師の日本語豆知識

言葉が通じないストレス

公開日:2015.08.26 更新日:2023.04.26

日本語教育とは全く関係のないあるTV番組で、興味深い実験をしていました。
それは「人間が感じるストレス」を測定する実験。

ロシア語が全く分からないAさん、Bさん、Cさんの3名(日本人)が、
ロシア語の歌しかないカラオケボックスでロシア人と1時間一緒に過ごしたら、
どのぐらいのストレスを感じるか?という実験で、
次のように、少しずつ3人の条件を変えます。

①Aさんは1時間ずーっと黙ってロシア人たちのロシア語の歌を聞いている

②Bさんは時間ずーっと黙って、お菓子を食べることで現実逃避し
 ロシア人たちのロシア語の歌を聞いている

③Cさんは、意味や単語が分からなくても、とにかくロシア語の歌を口真似して
 ロシア人と一緒に歌う

というものでした。

結果は、

ただ黙って聞いていたAさんのストレスは最高レベルの5
(これは肉親を亡くした時に感じるストレスと同じレベルだそうです!)

お菓子を食べることで現実逃避していたBさんのストレスは3

そして、わからないけど、とにかく周りに合わせて声を出していた
Cさんのストレスは2

(これは通常私たちが日常生活で感じるストレスと同じレベルだそうです)

という大変興味深いものでした。

このAさん、Bさん、Cさんの置かれてい状況を、日本で生活している外国人に
置き換えてみると、彼らが「言葉」に関して、どんなストレスを感じている
のか、イメージができます。

何より私が驚いたのは、Aさんのストレスレベルです。
言葉が分からない環境で何も話さず黙っているというのは、肉親を亡くした時に
感じるのと同じストレスの高さとは・・・!!


たまたま見たTV番組だったのですが、日本語を教える立場の私にとって、
大変参考になるものでした。

私たち日本語教師は日本語を教えるとき、
常に学習者の言語能力の範囲」で話し
教師と学習者の言葉のキャッチボール(「質問‐答え」の繰り返し)」を
しながら
授業をしています。
全くのゼロの段階でもとにかく教師の口を真似させて、
学習者たちに発声するように促します

このTVをみて、どうして直接法の時に、そういう指導法が必要なのかを
改めて理解しました。
同時に、「言葉」というのは人が生活していく上で、とても重要なものなのだと
しみじみ思いました。

日本で生活する外国人に日本語を教えることは、このストレスから彼らを
開放してあげることにつながる!と言ったら、大げさでしょうか?

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。