現役日本語教師の日本語豆知識
「ここ/そこ/あそこ」の使い分けのルール
公開日:2015.08.17 更新日:2024.08.29
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ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
皆さん、こんにちは。
お盆休みはゆっくりと過ごすことができましたでしょうか?
さて、先週の予告通り、今日から毎週月曜日は
「日本人が知らない日本語の仕組み」をご紹介していきます。
ぜひ、皆さんも「外国人に日本語を教える」つもりで、考えてみてください。
今日は、「ここ/そこ/あそこ」の使い方です。
ここは教室です。/そこは廊下です。/あそこはトイレです。
多くの日本語のテキストでは、非常に早い段階でこの「ここ/そこ/あそこ」を
教えます。
では、皆さん。日本語教師になったつもりで、考えてみてください。
ジョンさん:先生、「ここ/そこ/あそこ」はどう違うのですか?
新米先生:「ここ=近い所/そこ=中くらいの所/あそこ=遠い所」ですよ。
ジョンさん:そうですか。
(数日後。ジョンさんは今、ブラジルを旅行中で、日本にいる新米先生に電話を
かけてきました)
ジョンさん:先生。こんにちは!ここは今午前8時ですよ。
あそこは何時ですか?
新米先生:あそこ?ジョンさん、「あそこ」ってどこ?
ジョンさん:??? もちろん、日本ですよ。
新米先生:・・・。ジョンさん。
そういう時は、「あそこ」ではありません。「そこ」です。
ジョンさん:「そこ」?どうして?日本はブラジルからとても遠い所ですよ。
先生は「あそこ=遠い所」と教えました。
だから、「あそこ」でしょう?
新米先生:・・・・・。
さて、皆さん。新米先生の教え方。どこが悪かったのでしょうか?
日本人に「ここ/そこ/あそこ」はどう違いますか?と質問すると、
多くの場合、新米先生同様、
「ここ=近い所/そこ=中くらいの所/あそこ=遠い所」という答えが
返ってきます。
しかし、実は、
ここ=話し手(自分)の周囲
そこ=聞き手(相手)の周囲
あそこ=話し手(自分)からも、聞き手(相手)からも離れている所
という使い分けのルールがあるのです。
ですから、ブラジルにいるジョンさん(話し手)は、今自分がいる所を
「ここ」と言いますが、聞き手である新米先生がいる日本は「聞き手(相手)の
周囲」ですから、「あそこ」ではなく、「そこ」と言わないと、変な日本語になってしまうのです。
「ここ/そこ/あそこ」のような言葉を「こそあど言葉」と言います。
例えば、「これ/それ/あれ」や、「こちら/そちら/あちら」なども
そうです。
言葉自体は変わっても、
「こ」=話し手(自分)の周辺の事柄
「そ」=聞き手(相手)の周辺の事柄
「あ」=話し手(自分)からも、聞き手(相手)からも距離がある事柄
という「こ・そ・あ」の使い分けのルールは変わりません。
今日は、皆さんもぜひ、自分が無意識に使い分けているこのルールを意識して
みてください。
◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆
ジョンさん:先生、公園に子供がいますね。犬もいますね。
あ、チューリップもいます。
新米先生:ジョンさん、「チューリップもあります」ですよ。
ジョンさん:???どうしてですか。
先生は、「生き物」は「いる」と教えました。
チューリップは「生き物」ですよ。
さて、皆さん。
どうして、「チューリップもいます」では間違いなのでしょうか。
答えは、1週間後(8月24日)に。
この記事の監修者
![監修者の写真](https://www.rn-ac.jp/teacher_ryoko_matsuda.webp)
ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師
《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格
《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。
《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。
《監修者からのコメント》
日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。