現役日本語教師の日本語豆知識

「ら抜き言葉」は理由があります。

公開日:2016.09.26 更新日:2024.05.27

先週、ニュースや新聞で文化庁の「国語に関する世論調査」が発表され、
「ら抜き言葉」をつかう人が初めて多数派になったと報道されました。

「ら抜き言葉」。
見れる、食べれる、寝れる・・などの「れ」の前の「ら」が脱落した言い方
です。
一時期、日本語の乱れの象徴として叩かれましたが、今ではアナウンサーも
原稿を離れたトークなどの場面では話していますし、画面に出るテロップも
「見れる」となっていることがあります。
(私も、「辛い物は食べられない」と言った時に、「食べられない?どこの
方言?」と真面目な顔で日本人に質問されたことがあります・・・。)

実は、この「ら抜き言葉」
日本語教師の間では、「理由のある現象」として捉えられています。
(なんていうと、「ら抜き言葉、絶対認めない!」と言っている先生方に
怒られそうですが・・。)

今日は、どうして「ら抜き言葉は理由のある現象」として捉えられているかを
お話したいと思います。

「食べられる」

これだけを聞いて、皆さんは「可能表現」か、「尊敬表現」かの区別が
つきますか?
 

私は「これだけでは、どちらか分かりません」という答えです。

そうなのです。
この「~られる」という言い方は、可能表現と尊敬表現の両方で使われる厄介な
もの
なのです。
特に、会話で主語を省略する傾向のある日本語は、「食べられる」だけで
話すこともあるので、外国人にとっては、「可能?尊敬?」と混乱を招く原因
となっています。

また、この「ら抜き言葉」は「上一段活用」と「下一段活用」の動詞と「来る」
の可能表現だけに表れる現象
です。
動詞の多くを占める「五段活用」の可能表現は、「書ける」、「読める」、
「話せる」のように、「らを入れない」のです。
要するに、動詞の多数は「ら」を入れずに可能を表すのに、ある限られた動詞
のみ「らを入れなければならない」というイレギュラー
が生じているのです。
(日本人はこれをイレギュラーと考えないかもしれませんが、日本語を外からの
視点で見ている外国人は「ら有り言葉=イレギュラー」と捉えています)

まとめると、

①「見られる」、「食べられる」のように「ら有り(?)言葉」では、
  可能表現か、尊敬表現かの区別がつかないので、
  その区別を付けるために可能表現の時に「ら」の脱落が起きている

②動詞の大部分を占める「五段活用」の可能表現のルール同様、「上/下一段
  活用」、「来る」も「ら」をつけない変化をさせた結果
が「ら抜き言葉」

ということが言えます。

こう考えると、この「ら抜き言葉」も、それなりの理由がある現象だと言える
のではないでしょうか。

「ら抜き言葉」は、現在「日本語の揺れ」として扱われているので、日本語の
テキストにも「ら有り言葉」が載っています。
(最近は、「ら」が脱落することがあることを説明しているテキストもあり
ます)
ですから、私たち日本語教師も「ら有り言葉」を教えますが、「ら抜き言葉」が
多数派になったという調査結果を受け、「ら抜き言葉」が認められる日も遠くは
ないと感じます。

「食べれる」は可能表現、「食べられる」は尊敬表現と「ら」の有無で分かる
ようになれば、日本語を勉強する外国人は「分かりやすい!」と思うのでは
ないかと感じています。

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この記事の監修者

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松田 良子 Ryoko Matsuda

ルネサンス日本語学院 日本語教師養成講座講師

《資格》日本語教師養成課程修了・日本語教育能力検定試験合格

《経歴》日本語教師養成講座を修了後、約30年に渡り、大使館、留学生、インターナショナルスクール、企業などで日本語教育に従事。また、(社)国際日本語普及協会の「地域日本語教育コーディネーター研修」修了後は、地域の日本語教育、ボランティア支援や教育委員会日本語研修プログラム、NHK文化センター、一部上場企業などへの日本語教育コーディネイトや日本語教師養成に携わり、日本語教育総合支援など多方面で活躍中。

《専門分野》就労者・生活者・年少者に対する日本語教育。

《監修者からのコメント》

日本語教師の勉強は、「知識」だけでも、「技術」だけでもだめです。 両方揃って初めて「学習者」という同乗者が安心して授業を受けられます。単なる知識の講座ではなく、皆さんより少し先を歩く私たち現役日本語教師が考え、悩み、苦労してたどり着いた答えを多く取り入れた「現場目線」を意識しています。
私自身、国語教師を目指し、日本語の文法にも自信があったにもかかわらず、「こんにちは。」の使い方を外国人に教えられなかった…というショックから、「日本語」に興味を持ち、日本語教師になりました。日本語教育業界は、わかりやすそうでわかりにくいですから、この業界の専門知識のある人に相談することがおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。