大阪校ブログ

"あれ"と"それ"が逆転⁉ 日本語の指示語の不思議

2025.07.05

こんにちは!
今回は、日本語を学ぶ外国人学習者が混乱しやすい指示語「これ・それ・あれ」について取り上げます。

実は、日本語の指示語は「距離」で説明されることが多いのですが、実際の会話になるとそのルールが通用しないことも...⁉

学習者が「えっ、どうして今"あれ"なの?"それ"じゃないの?」と首をかしげる場面は、教室でもよく見かけます。


◆ まずは基本のルールをおさらい

日本語の指示語は、話し手と聞き手の心理的・物理的な距離によって使い分けます。

指示語 基本的な使い方
これ  話し手の近くにあるもの(話し手のもの)
それ  聞き手の近くにあるもの(聞き手のもの)
あれ  両者から遠いもの、共に認識している遠いもの

ここまでは多くの学習者も理解できます。
しかし、実際の会話になるとこのルールでは説明しきれない例がたくさん出てくるのです。


◆ 「それじゃなくて、あれだよ!」問題

よくあるのがこのパターン。


Aさん:「昨日さ、○○の話したじゃん?」
Bさん:「あー、あれね!」


この「あれ」、実は話し手も聞き手もよく知っている話題。
距離的には近いはずなのに、なぜ「あれ」なのでしょう?

ポイントは「共通の記憶」や「一歩引いた視点」

「あれ」は、両者がすでに知っていて、かつ"少し客観的"に見ているときによく使われます。
つまり、「"あの話"って、ちょっと特別だったよね」「"あれ"ってすごかったね」のように、心理的に距離をとっているイメージです。


◆ 学習者がつまづく理由は?

外国語話者にとっては、「話題の"物理的"距離」ではなく「心理的・文脈的距離」が影響するというのが、非常に理解しづらい点です。

たとえば:

  • 教室で使っている教材を指して
     先生:「それを開いてください」
     学習者:「でも、私の近くにあるから"これ"じゃないの?」

→ 教師は「自分と学生で共有している教材」という前提があるため、「それ」と言います。


◆ 会話での「指示語」のコツは?

学習者に伝えたいポイント:

  1. 「これ・それ・あれ」は距離だけでなく、"気持ちの距離"も関係している

  2. 会話では、共有しているものを"それ"や"あれ"と呼ぶことが多い

  3. "あれ"は少し感情がこもったり、印象的な話題に使われやすい

実際には、「これって何?」「それってどれ?」と指差しや具体化を使いながら、やり取りを通して自然に身につけていくことが大切です。


◆ まとめ:指示語は"人間関係のことば"

「これ・それ・あれ」は、ただの"言葉の指し示し"ではありません。
そこには、話し手と聞き手の距離感、共有している経験、感情の動きが表れます。

だからこそ、指示語をマスターすることは、自然な日本語を使えるようになる第一歩

教室でも、「どうして"あれ"って言ったの?」と学習者が気づく瞬間こそ、日本語の面白さを感じてもらえるチャンスです!