大阪校ブログ

どうやったら「教科書を読みたい」と思わせられるか ―スキーマを活かした「読む授業」の工夫―

2025.10.14

日本語教師にとって、「読解の授業」はいつも悩みどころです。
特に留学生にとって、教科書の文章を「読みたい」と思えるかどうかは、授業の導入と工夫にかかっています。

◆ 活字が読めても、理解できるとは限らない

たとえ日本人であっても、難しい文章や背景知識のない内容をすぐに理解するのは簡単ではありません。
単に語彙力の問題だけではなく、「自分の経験」と文章内容が結びついていないことで読めない、ということがあります。

日本語学習者も同じです。
文字や文法をある程度理解していても、文化的背景や経験の有無でピンとこないこともあるのです。


◆ スキーマを活かす ― 読解前の"準備"がカギ

人は文章を読むとき、スキーマ(過去の経験や知識の枠組み)を使って、内容を予想しながら読もうとします。
しかし、学習者のスキーマは国籍や文化によって大きく異なります。
同じ物語でも、背景知識が違えば理解の方向がずれてしまうこともあります。

たとえば、「お歳暮」「凧あげ」「お正月」など、日本文化を前提にした内容は、外国人学習者にとっては"未知の概念"です。
このようなとき、事前に画像や動画を見せて、共通のイメージを作ることが大切です。
「教科書を読む前の導入」で、"同じ方向を向いて読む準備"を整えるのです。


◆ スキーマを引き出す質問 ― 「読む前」と「読んだ後」で変化を見る

ある授業で、次のような工夫をしていました。

  1. 教科書に入る前に、テーマに関する質問をいくつか投げかける。
     (例:「お歳暮は知っていますか?」「どんなものか、考えてみましょう」)

  2. 学習者が自分の経験を思い出しながら答えることで、スキーマが活性化される。

  3. 教科書を読み終えた後に、同じ質問をもう一度してみる。

すると、学習者の答えが「読む前」と「読んだ後」で変わっていることがありました。
それは、教科書を通して新しい視点や価値観を得た証拠です。
このように、スキーマを働かせながら読みを進めると、学習者が「自分ごと」として文章を読めるようになります。


◆ 実際の授業で見えた変化

この手法を取り入れた「読みの授業」では、学習者の集中度が高まり、
「もっと続きを読みたい」「自分の考えを話したい」といった前向きな発言が増えました。

単に"読む練習"をするのではなく、
「読む目的」や「読む意味」を学習者自身が感じられるようにすること。
それが、教科書を"読みたい"と思わせる授業づくりの第一歩です。


◆ まとめ

  • 活字を読める=理解できる、ではない

  • 国籍・文化によるスキーマの違いを意識する

  • 事前の質問や映像提示で「共通の土台」をつくる

  • 読む前と読んだ後で考えを比べることで、理解の深まりを実感させる

日本語教師の工夫ひとつで、
教科書の一文が、学習者にとって"心を動かす物語"に変わります。